紙のはじまり ー 古の雰囲気を現代に残す、ロクタ紙 ー

世界最古の紙は諸説ありますが、エジプトのパピルス紙や、中国の麻紙と言われています。パピルス紙は、紀元前2000年頃のエジプトに流れるナイル川に自生する芦の葉の茎をたたいてつぶして乾燥させたものです。中国でも紀元前からに手漉き紙工法を発明しています。フランスでは14世紀からコットン布をミキサーした手漉き紙産業がありました。日本には7世紀初期に中国から紙が伝えられました。太古の昔から、人々は、文字や絵を未来に伝承するために紙を利用してきました。4000年以上も昔に紙に描かれた文字や絵が、今現代に伝えられていることは、たいへん驚くべきことだと思います。ロクタ紙は昔ながらの工法でつくられている手漉き紙なので、どこか古代に気持ちを馳せられる魅力があります。

「ロクタ紙」と「和紙」の違い -ロクタ紙ならではの魅力-

ロクタ紙と和紙の違いについて聞かれる機会が多くあります。それぞれの紙がつくられる原材料が違います。ロクタ紙は「ロクタ」樹を材料としてつくられ、和紙の多くは「コウゾ」を材料につくられています。植物の大まかな違いや用途は以下のようになります。

<ロクタやミツマタ>・・・ジンチョウゲ科、生成色の繊維、繊維につやがある、繊維が長い、多くは溜漉き工法による紙、保存書・紙幣など
<コウゾ>・・・クワ科、白色の繊維、繊維がふわっとしている、ロクタやミツマタに比べ繊維が短い、多くは流し漉き工法による紙、半紙・懐紙・奉書、障子、襖紙など

-日本の手漉き紙「和紙」について-
中国から日本に紙が伝わった7世紀初期、日本で使われていた紙はミツマタ紙が多かったと思います。伝来品である紙はたいへん貴重なものであったとともに、貴族文化のなかで使われていました。コウゾでつくられた紙が「和紙」の主流となった背景に、コウゾの性質が日本の風土に適していた、手作業に向いた柔らかい繊維、自然水の豊富さ、さらには養蚕産業とも結びつき、日本の紙文化・産業として根付いていったと思われます。

次回は「日本人のくらしと紙」をおはなししたいと思います。

ナチュラル・ダイ(自然染)の染料 -ロクタ紙の自然染め-

古来より、ネパール、インド、チベットなどの地域では、衣類や伝統服の布を染めるために天然の植物から色を取り出してきました。ロクタ紙にも天然染料で染めた紙の種類があり、ミロバラン、アカミノアカネ、アカシア・カテチュー、ウォールナットなどを材料に、自然染めならではの深い濃淡や色合いに仕上げられています。また、現地の方の手作業も安心して行え、排水時も自然に負荷がかかりません。

ロクタについて -ヒマラヤ原産の手漉き紙・ロクタペーパー-

ロクタはヒマラヤ保護地区に自生する植物ジンチョウゲ科の植物です。標高2600〜4400メートルの所に自生し、1.5〜2.1メートルまで成長します。英名では『Daphne Cannabina』と呼ばれ、ジンチョウゲのように甘く強い香りの白色の花を咲かせます。ロクタは和紙の原材料であるミツマタの原種とも言われています。現地の方の手作業により、この木からとれる長く艶のある繊維を木型で漉き上げ、つややかな生成色のロクタ紙に仕上げられます。